「病児保育施設」というセーフティネットをご存じだろうか。

専門知識と技術を備えた保育士や看護師が、子どもの状態に合わせ適切な保育を引き受ける施設である。しかし利用手続きの煩雑さや認知度の低さから、十分に活用されていないのが現状だ。

「より多くの方が利用できる仕組みづくりが重要」と語るCI Inc.代表園田氏は現役医師でありながら、スタートアップとして「あずかるこちゃん」を立ち上げた。病児保育を日本に普及させる戦略とは。

課題は施設数よりも利用率

「あずかるこちゃん」はどのようなサービスですか。

CI Inc. 代表取締役社長 園田さん(以下、園田)まずはこの病児保育利用時のフローを見てみてください。

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(出所:あずかるこちゃん 事業説明資料)

①事前登録

②子どもが病気になったら予約を取る

③医師の診察を受ける

④病児保育に入室して保育を1日受ける

という過程が必要であり、最終的に利用するためには多くの紙書類と電話予約が必要になっています。

この使いづらい状況をスマホでワンダフルに解決するのが「あずかるこちゃん」です。

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同社はクラウドファンディングを実施している。(7/27現在)

今後目指すサービスの完成形、という前提の上で今日は3つの機能をご説明します。

1つ目は病児保育施設の利用状況を見える化することです。

お子さんを持つお母さんにヒアリングすると、「どうせ使えない」と諦めている方が結構多い。そこでまずは空いているかどうかを判断できるようにします。

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(出所:あずかるこちゃん 事業説明資料)

2つ目は、優先順位をつけた、複数施設の予約です。

これは病児保育施設に特徴的ですが、利用者の方が施設を予約して当日の朝を迎えると、3割~7割の人がキャンセルになります。

理由は、子どもの熱が下がって保育園に行けるようになったというポジティブなものですが、施設側の現場はキャンセル対応に追われることになります。

これを解決するために、第1希望の施設でキャンセルの方が出たらシフトして、空いたところは別のキャンセル待ちの方が繰り上げて利用できる、というシステムを考えています。

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(出所:あずかるこちゃん 事業説明資料)

3つ目はオンラインの問診です。

事前登録や問診を紙ではなく、スマホからオンラインで入力できるようにします。それによって施設に来る前に保育士さんは情報を見ることができるので、お子さんのお預かりもスムーズにいくはずです。

情報収集が終わっているので、保育士さんに余裕が生まれ、保護者と目を合わせてコミュニケーションを取ることができるようになります。

ビジネスモデルについても教えてください。

こちらがビジネスモデルです。

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(出所:あずかるこちゃん 事業説明資料)

利用者は無料で、施設、あるいは、市区町村からシステム利用料をいただくモデルです。

病児保育は市区町村の委託事業ですから、われわれとしては現場の施設よりも市区町村と契約したいと考えています。

たとえば世田谷区さんには11施設ありますが、区と契約すれば世田谷区にお住まいの方はその11施設全てにあずかるこちゃんから予約やキャンセルができます。

保護者にとっては一つずつ予約している現状よりも、かなり良い体験になります。また、病児保育は究極の子育て支援と言われ、市区町村のミッションである子育て世代にどうやって魅力ある街づくりをするかに関わっており、ぜひ市区町村と一緒に事業を進めていきたいですね。

市場の大きさを考えたときに、病児保育はニッチなのでは?と思われる方がいるかもしれませんが、そんなことはありません。毎年100施設以上が全国で新設されており、利用人数も右肩上がりです。

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(出所:あずかるこちゃん 事業説明資料)

ただ、伸び幅は施設と人数が比例しており、残念ながら利用率が上がっていません。

実際にどれだけの人が使いたいのか、保育園児数や病気で休む日数を基に私の方で試算した結果、年間延べ人数とすると1,500万人という数値が出ています。現在の利用者の20倍以上です。このように、ニーズはあるけれども、利用されていないというのが現状だと思います。

保育園とは違い、病児保育があまり利用されていないというのは意外です。

実際にお母さんたちにヒアリングすると、保育園と同じように利用申請が大変というイメージを持っている方はけっこういらっしゃいました。働いている方にとって、平日に持参したりするのは負担は大きいですよね。

他にも、トライしたけど満室で使えなかった、という体験を2-3回経験すると、「どうせ使えない」といったネガティブなイメージを持っていらっしゃる方も多いです。

施設数より利用率とは言っていますが、施設数も重要です。今は施設数が全国に1,750しかありませんが、その3倍はあってもいいと私は思っています。

ただ、施設数を増やすのはやっぱり時間もお金もかかってしまう。

今、これだけ素晴らしい施設が1,750あるのに7割空いている。アクセスをよくできれば、病児保育の問題のいくつかはすぐに解決し得るのかもしれないと思い、最初は「利用しやすい」仕組みづくりにフォーカスしていますね。

病児保育施設が利用されていない理由は、心理的側面も大きいのではないですか。

おっしゃる通りで、病児保育はいつも行っている保育園とは違う場所なので、子どもにとっては知らない場所で、はじめての大人と触れるという高いハードルがあります。

子どもが病気のときにはすぐに看護休暇を使って休めるような社会を推し進めていくのも大事なので、「病児保育、絶対使ってね」と思っているわけではないんですね。僕がやりたいことは、病児保育が必要な方にもっと近く、使いやすい環境を整備することで、「病児保育へお願いする」という選択ができる社会にすることです。

一方で、実際に子どもが保育を受けている姿を見ることが出来ないために、現実とは乖離したネガティブなイメージが生まれてしまっている側面もあると思っています。

たとえば、僕が自分の子どもをお願いするとなったら、最初は子どもはギャン泣きするんですよ。「パパ行かないで!」って。でも、15分後には笑顔で保育を受けているのが実際のところです。

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(画像:ucchie79 / Shutterstock.com)

他には2次感染のリスクを心配される方もいらっしゃいますが、病児保育施設ではその対応もしっかりされています。たとえば隔離対応が必要な病気を持っている子どもは専用の部屋で対応していますし、標準的予防策と言われるマスクを付けて保育看護を行ったり毎日おもちゃ等を全て消毒したりしています。

そういった施設の取り組みを見える化していくことで、病児保育に対するネガティブなイメージとの現実のギャップを埋めていく。そこは僕らができることだと思っているので様々なことに挑戦したいと思っています。

事業としてはうまみがない。病児保育以降の戦略とは

利用率が低いと、病児保育施設の黒字化も難しいのではないでしょうか。

おっしゃる通りで、今は7割ぐらいの施設が赤字と言われていますね。

たとえばクリニックが併設している病児保育について言えば、病児保育を通して働くお母さん・お父さんたちを少しでもサポートしたいという思いのある施設長の方々がクリニックの資金を持ち出して運営をしているところが多いです。

それは逆に言うと、病児保育施設は熱い想いを持つメンバーがやっている本当にいい場所だということです。そういった意味でも、皆さんにはぜひ病児保育を利用してほしいですね。

あずかるこちゃんとしての収益性はどうお考えでしょうか。

あずかるこちゃんは事業として凄く儲かるからやろうという訳ではありません。「病児保育はすごい素晴らしいものなのに、うまく社会とつながれていない」という課題感からスタートしています。

ただ、自分は会社の代表ですから、事業の継続性は大事だと考えていますし、ビジネスとして収益を上げることは必ずやらなきゃいけないと思っています。

子どもが急に病気になるというペインに対してのソリューションとして、病児保育は非常に市場が大きいと思っています。先ほど潜在ニーズにも触れたように、年間1,500万人の人が今のままでは困ることになる。

今まさに挑戦しているのは、病児保育だけではなく、市区町村や保育園、病院やクリニックとビジネスでつながっていくことです。子どもの病気は普遍的に存在するので、それに対してどうやってビジネスとして新しい価値を提供するのかを考えていきます。

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(出所:あずかるこちゃん 事業説明資料)

行政との連携も重要になってきますね。

行政も「市民をどうやって幸せにするか」というところは皆さん一緒の理念を持っているのですが、手続きや予算の話が絡んでくることも当然あります。

行政が抱えている課題の1つに減点主義があるかと思いますが、要は何かを変えることのインセンティブがないんですよね。担当者の方は2年か3年で部署が変わりますし、新しい取り組みに失敗したら重い責任があったり、そういった難しさもあると思います。

それでも大事なのは、しっかりエビデンスを出すというところだと思います。市区町村の担当者の方もやりたいけど、上司の方をしっかり納得させられるものを僕らが用意できれば、市区町村とも一緒にイノベーションを起こしていけると思いますね。

今持っている課題感と今後の展望を教えてください。

必要としているのはやっぱり「人」です。特にエンジニアの方ですね。

エンジニアの方はテクノロジーがすごく好きという点で医者と近い部分もあるなと思っています。今入った技術顧問のエンジニアもその辺りを考えてくれていて、技術的にも楽しい!と思ってもらえる仕様を考えてくれています。

そして何より、自身のスキルを使って、社会をより良く変えるプロダクトに関わりたい!という熱い想いを持った方を募集しています。

さらに、CI Inc.のミッション、ビジョンに共感してくださり、一緒にビジネスとして成功させられるビジネスパートナーも募集しています。この記事に興味があったり、マッチしそうなお知り合いの方がいればぜひ紹介をよろしくお願いします。

われわれが目指していることは、病児保育のプラットフォームをつくることです。

たとえば、保育園で子どもが熱を出してしまったとしましょう。これまではお母さんが送迎のために呼ばれていたところを、直接送迎に行かなくても安心して病児保育で看てもらうことが出来る。

そういった世界を市区町村、病院・企業と連携して実現していきたいですし、必ず実現します!どうぞ、応援よろしくお願いします。

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文・写真:ami

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