”カッコよくない”自分を知りオープンにすることの意味

2019/09/07

スタートアップ最前線

※本記事は2019/3/10時点で公開されたものを再編集した内容です。

自分が弱いと思われたくないから、助けてと周りに言いづらいー。 こう思ったことはないだろうか。

厚生労働省の調べによると、労働者の約60%が「現在の仕事や職業生活に関することで強いストレスを感じている」と回答している(厚労省・29年労働安全衛生調査結果)。

それは起業家も例外ではない。UC Berkeleyの調査によれば、起業家のうつ病の羅漢率は対照群に比べ2倍の30%にのぼるとの結果もでている。

その状況に一石を投じるスタートアップがある。経営者のメンタルを支えるコーチングプログラム「escort(エスコート)」を提供するcotree(コトリー)だ。

起業家に特化してコーチングを提供することで起業家のメンタルケアを支援する。

今回は、escortを導入しているD4V 伊藤氏と共に投資側から見た起業家の現状や起業家を支える仕組みについてcotree CEO 櫻本氏に語ってもらった。

起業家特化のメンタルサポートサービスの秘密

cotree 櫻本さん(以下、櫻本)escortはメンタルの問題が起こる前や、起こったときにコーチングなどの支援を専門家から受けられる「起業家向けのメンタルサポートサービス」です。

起業家の方に無料で使っていただくために、運営にかかるコストを投資家さんや起業家を支援したいと思っていらっしゃる皆さんにスポンサーとして支援頂いております。

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株式会社cotree CEO 櫻本 真理(さくらもと・まり)氏(写真:ami)

すでに100人以上の方に利用していただいており、今年中に500名程度の起業家さんをサポートしていく予定です。

サービスの申し込みを開始した後、想像以上にたくさん方からお申し込みいただき、現在はサポートいただいている投資家さんの支援先の方から優先的にご案内をさせていただいている状況です。

ユーザーの多くはメンタル問題の解決より、問題が生じるのを予防するために使っていただいています。

ビジネスモデル

メンタルケアは起業家だけの問題にあらず

D4V 伊藤さん(以下、伊藤)私はD4VとGenuine Startupsという2つのベンチャーキャピタルをやっていますが、それらの投資先の起業家にescortを提供したいと思い、支援させていただいています。

実際にこれまで会ってきた起業家の中には、メンタル的に悩んでいることを人にうまく言えていないケースも多いのではないかと思います。

たとえ私たち投資側がそれを気付けても、メンタルケアの専門家ではないので限定的な対応しかできません。

そういった背景もあり、メンタルケア領域に特化したサービスがあるのなら使いたいと思いescortを導入することを決めました。

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D4V合同会社 COO 伊藤 健吾(いとう・けんご)氏(写真:ami)

そもそも、投資家としてescortを使わない理由はほとんどないと思っています。

櫻本私たちもサービスを最適化するために、投資家から「どのような事例を経験し、サポートしてきたか」を伺いながら、そこに対して「専門家としてやるべきことは何か?」を確認しながらescortをつくっています。

「自分が弱いと思われたくないから、助けてと言いづらい」という理由から、周りに相談できずメンタル問題が深刻化してしまうケースは非常に多いです。

特に起業家は「強くあらねばならない」と思っていることが多いため、チームだけでなく投資家にも弱音を吐けないことが少なくありません。

そこで、投資家から「弱いときがあってもいいし、メンタルで悩んだらescortを使ってみて」と言ってもらえるだけで、起業家のメンタル的な負担は大きく変わってくるんじゃないかと思っています。

「強くなくてもいい」と起業家が当たり前に感じられる環境をつくれれば、今まで出しにくかったメンタルのSOSも出せると考えています。

伊藤投資側としては支援先の起業家をできる限り応援したいと思っているので、うまくいっていない時は相談して欲しいと思っています。

しかし起業家からすると、お金を出してもらっている投資家に「うまくいっていない」とは言いづらいのも分かります。

「相談して欲しいけれど、そう簡単にはしてもらえない」といった部分に、難しさを感じる場面は今までも多々ありました。

escortを提供することで、投資家に対して「投資のリターンを返す相手」ではなく、「同じ船に乗って挑戦している仲間」と感じてもらえるきっかけになればと思っています。

特に私たちはシード投資をメインに行なっていることもあり、起業家との付き合いも長くなることが多いので、できる限り相談しやすい相手でありたいんですよね。

そしてメンタル面での相談に限って言えば、投資家自身で解決を目指すよりも専門家に頼ったほうがいいと思っています。

「投資家として何かしたいとずっと思っていた」

伊藤メンタルケア領域に対して課題感はこれまでも持っていたので、何かしたいとはずっと思っていました。

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(写真:ami)

しかし投資家は預かったお金を投資して増やすことを生業としていることもあり、メンタルケア領域のビジネスはスケール性の観点からなかなか投資しにくかったのも事実です。

その点、escortは投資家の管理報酬の範囲内で払える金額設定なので、非常に支援しやすい仕組みです。

最初のリリースを見たときからぜひ利用したいと思っていました。

CAMPFIREやNOWの代表である家入さんもescortの立ち上げに関わっています。彼とも付き合いが長く、どのような課題感を持ってやろうとしているのかを把握していたのも支援した理由の1つです。

私たちだけでなく、いろいろな投資家がescortを支援しているのをみると、メンタルケア領域について何かしたいとみな思っていたんじゃないでしょうか。

変革の兆しが見え始めた

櫻本サービスを始めてから利用申し込みもたくさんありましたし、メディアで発信する機会もいただけたことで、社会からも共感を得られている感じはあります。

メンタルケア領域は少なくないニーズがあると多くの人に知ってもらえたのは、社会全体の空気を変える上で非常に重要なことです。

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(写真:ami)

われわれの発信がきっかけとなり、起業家が「実は自分も精神的に辛い時期があって」といったブログを自発的に書いて、発信することも増えてきた気がします。

メンタルケア領域で「一緒に何かやりたい」と相談を受けることも増えています。

escortをきっかけにメンタルケアに対する問題意識を持った方が増えたことが、この取り組みの最大の成果だと思います。

解決方法は私たちのアプローチ以外にもあると思うので、escortが唯一のソリューションとなることを目指すつもりはありません。escortがきっかけでいろいろな活動が始まったり、発信が増えることの方が重要だと思っています。

伊藤以前は起業家のメンタルの話が表に出てくることは少なかったですよね。

起業家同士で会えばそういった話をしたりしますが、文章といった人の目に触れるかたちで語られることはほとんどありませんでした。それが最近はだいぶ表に出てくるようになったように感じます。

櫻本起業家のメンタルケアと言っても「自分が病んでしまうケース」と「周囲が病んでしまうケース」があると思います。

2つのケースは「自分を責める」か「人を責める」かが違うだけで、起業家自身が感情やメンタルの状態、他者との関わり方をコントロールできるようになることが重要です。

会社を立ち上げた後、自分の周囲に立て続けに鬱の人が出て、初めて自分にも解決すべき課題があるかもしれないと自覚する起業家も多いです。

escortでは「何がきっかけで周囲との関係性が崩れているのか」を起業家自身が考えることで、改善すべき課題についての理解を深められます。

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(画像:PORTRAIT IMAGES ASIA BY NONWARIT/Shutterstock.com)

「どのような人がいて、その人との間では何が起こっているのか」を理解し、それに対して「どのような行動を取ったら改善するか」をescortを通して起業家に考えていただいています。

また起業家だけでなく中間管理職の方に対しても、同じように考えるきっかけを提供していきたいです。

結局起業家が悩むポイントは人間関係かお金の問題がメインになると思うので、お金の問題は専門家である投資家に任せ、今まであまり扱われてこなかった人間関係の問題をescortでは扱っていきたいと思います。

自己開示は成長のカギ

櫻本アセスメントを用いて自分の強みや弱みを理解した上で、それを生かす行動をとれるようコーチングする。これがescortの基本的な流れです。その際に重要になるのが「自己開示」と「自己理解」だと思います。

サービス説明

(画像:公式ページより)

自己開示ができるとより齟齬なく周りとコミュニケーションを取れるようになります。しかし自分の特性を理解しても、それを周りに開示するのが苦手な人もいます。その時は「なぜ自己開示に抵抗感を持っているのか」話し合い解決を目指します。

また自己理解も簡単なことではありません。特に客観的に自己を見るための切り口を知らない人は多いですね。

専用のアセスメントとコーチングを通して、「自分はどんな場面でやる気が出るのか」「どんな状況のとき頑張れるか」「何がストレスの源なのか」といったことを客観的に理解できると、モチベーションやストレスをコントロールしやすくなります。

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(写真:ami)

自己理解が深まると、自分の感情や行動をより精度良くコントロールできるようになるんです。

伊藤長年投資して分かったのは、「起業家が自己開示できるようになると、事業もうまくいきやすい」ことです。

投資当初に比べ、失敗を含めて投資家に情報を開示ができるようになった企業は、成長スピードが上がっていると感じます。投資家にアドバイスを積極的に求めるようになってから、事業もうまくいき始めてるんですよね。

しんどい時に積極的に相談してくる企業の方が、ステージを着々と上がっていると思います。

ステップアップを続けている起業家は「周りに頼ることがうまい人」が多い気がします。

「人に頼る」ことで、課題を解決し次に進む方法を早く見つけられているからなんじゃないでしょうか。

また、最近は私自身もコーチングを体験するのが大事だと思っています。

コーチングに対する分かりづらさは、少なからずあります。自分がよく分かっていないものを、他人に薦めるのは難しいですよね。

支援先や起業家だけでなく、投資家も実際にescortを体験した上でサービスを広げていくのが今後は重要だと思います。

櫻本「起業家はコーチングに行きにくい」という話をする前に、支援者側も「メンタル的に抱えている課題はないか」体験するのが重要ですし、体験をすれば起業家にもより伝えやすくなると考えています。

今いろいろな人にメンタルケアの課題を知ってもらい、一緒にescortを広めていければと思っているので、興味のある方はぜひご連絡ください。

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聞き手:松岡遥歌、文:町田大地

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