17世紀から変わっていない?閉鎖感を打ち破る「アート版産業革命」の起こし方

2019/07/17

「アート」と聞くと、どのような印象をもつだろうか。難しい、敷居が高い、排他的。親近感を持っている人は少ないかもしれない。

そんな現状を、変えようとしている起業家がいる。アーティストと世界中のコレクターをつなぐECサイト「HARTi marche(ハーティー・マルシェ)」を展開するHARTi CEOの吉田氏だ。

アート文化が盛んなヨーロッパへの留学を含め、40カ国をバックパッカーとして周った中で感じた、「日本との決定的な2つの違い」と「日本のアーティストがもつポテンシャル」。

世界で7.5兆円の市場規模を持つアート業界で、アート後進国である日本が躍進するための、道の切り拓き方を聞いた。

アートの概念を変える

どのような事業をやっていらっしゃいますか。

HARTi CEO 吉田さん(以下、吉田) 私たちは「感性が巡る経済を創る」という企業理念を掲げています。

私自身が、40カ国ほどバックパッカーとして行った中で、日本人作家の作品のクオリティは非常に高いと感じました。

しかし、正当な値付けがされていなかったり、販売の部分が弱かったりすることで、海外のマーケットまで届きにくい現状があります。アートに国境は無いのに、壁がある。ここを変えたいと思ったのが私が創業した原点です。

その壁を壊し、全てのアーティストの感性が世界に届き、愛してもらえるような機会を創出することを目標に事業を行っています。

具体的には「アーティストのプロダクション事業」です。私たちの定義するアーティストとは、所謂「美術・芸術家」にとどまらず、食のアーティストや家具のアーティストなど、感性を基軸に制作活動をしている作家と広く捉えています。

そういった人は、作品の製作に集中することが多いため、プロモーションやSNS運営といったマーケティング部分に注力しづらい現状があります。しかし、そこに取り組まなければ作品が売れないため、結果的に製作に集中できません。

そこで、芸能人が芸能プロに入りCMや映画に出て有名になるのと同様に、アーティストに対して、企業とのタイアップや、販売・ブランディングサポート、その他法務面などのサポートの機会を提供しています。

その第一弾として、7月1日にECサイト「HARTi marche」をオープンし、アート作品のオンライン販売を始めました。

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(画像:公式ページ)

作品を買う文化は日本人には馴染みが薄いです。その壁を崩すために、作品を買う「体験」にこだわっています。

たとえば、ルイヴィトンといったファッションブランドで購入すると、リボンが付いた高級感溢れる箱に入っています。しかし、アート作品は決して綺麗とはいえない段ボールに入っており、届いてもプレゼント感が全くありません。例えば、iPhoneの箱は7秒で開くように設計されているそうです。「開ける楽しみ」と「開かないイライラ」の中間がちょうど7秒なのだとか。中身も素晴らしいですが、良い購入体験はパッケージから始まると思っています。

他にも、作品をイメージしたアロマをセットにして販売する予定もあります。アートの購入体験をアップグレードすることは常に意識しています。

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(写真:提供)

今後はギフトパッケージの種類も増やし、結婚式や彼女の誕生日、家を買うといった特別なタイミングで、アートを贈れる文化をつくっていきたいです。

今後は、街全体でアートを身近に感じてもらえるようにもしていきたいと思っています。東京のビル街を見ているとなぜか無機質な印象を受けませんか。

私が留学していたロンドンでは、ビルの壁面やオフィス、家の内装にも、アート作品が溢れていました。

今まで白壁でシンプルだった部分やオフィスの壁に作品を描いたり、日常生活の中にアートを取り入れることで、家の中の悪い気の浄化や、会社では社員の働きやすさ向上に繋がるのではないかと思います。

ECサイトは英語で作られていますが、最初からグローバル展開をしているのですか。

最初から海外を見据えています。チームもグローバルで、今秋には中華圏への展開を予定しています。しかし、日本のアートの市場規模も「日本のアート産業に関する市場調査 2018」によると、約3,000億円(H30年 一般社団法人アート東京)と言われており、潜在的に大きな可能性を持った市場だと捉えています。

お隣の中国は1.4兆円(H31年 アート・バーゼル)でアメリカ、イギリスに続いて世界3位の市場規模を誇っています。また中国は、人口が多こともあり、いかに人と違うユニークなモノを持つかや、派手なファッションを好む傾向があります。その点で、一点物のアートとの相性も良いです。

そういった特徴のある海外市場に挑まない理由はありません。成長性を考慮して、外国語対応を行い、グローバルに挑戦していきたいです。

原体験を作った「書道家」としての経験

アートに取り組もうと思ったきっかけはなんですか。

書くことが昔からとても好きで、小学生のときから15年ぐらい書道を続けています。

書くことを仕事にしたいと何度も思いましたが、それだけで食べられるほどの技量を持っていなかったので、一度は諦めました。

ただ、大学で法学部に入り勉強していく中で、自分を表現すること、0から1を生み出す活動が純粋に楽しいと思うようになりました。

そこで、もう一度アートや書などを勉強しようと思いロンドン留学を決意します。

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大学時代は外国人向けの書道教室などを行っていた。 (写真:提供)

ロンドン留学が大きな転機になったと。

もともと留学に行こうとは思っていましたが、どこに行くかは悩んでいました。

ロンドンを選んだのも、奨学金を給付されたからです。ただ行ってみると、地下鉄でバイオリンを弾いている人がいたり、ミュージアムが無料だったりと、日常生活とアートの距離がとても近かったんですよね。「アートは必ずしも美術館に行かなくても触れられるんだ」と知りました。

ロンドンの大半の美術館が無料なのも、「芸術の無料開放が市民の福利厚生に繋がる」という考えからきています。大変素敵な考え方だと思っています。

また、欧米ではアートをインテリアとして家の中に飾ったり、アーティストを育てる教育機関も整っています。アーティストにお金がきちんと流れるマーケットが日本より強固なものになっている点も、日本との大きな違いだと思います。

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(写真:提供)

日本でも小中高では美術館への訪問などがありますが、それとは欧米でいう芸術との近さは異なりますか。

もちろんそれも1つです。

例えばロンドンでは、小中学生が社会科見学でギャラリーに行ってトップアーティストの話を聞く機会があります。日本だと、社会見学といえば自動車工場といった、より仕事に近い実用性の高い場所に行くことが多いですよね。

小さい頃から、アートを「職業」にしている人と触れ合う機会をつくることで、アーティストを将来的な働き方の1つとして想像できる土壌がある部分も日本と異なっていると思います。

そもそもアートとは何ですか。

人それぞれの定義があっていいと思いますが、私は「既存の価値観に対する問題提起」だと考えています。

マルセル=デュシャンが発表した作品である「泉」が、現代アートの起源と言われています。これはいわゆる便器にサインをしただけの作品を「アート」として出品したのです。当時はこれはアートではない、と大批判を受けました。

アートとデザインの違いの典型例として、「デザインは問題解決で、アートは問題提起」だと言われます。

他人に同調することが良しとされ、波風を立てず、目立たないことを美徳とする文化においては、自己発信がしづらいのも最もなことです。ここをアートの力で変えていきたいと思っています。

ロンドンやニューヨークなど多くの国では、たくさんの人種・宗教の方がいるので、1つの思想や価値観・感性で縛ることは物理的にできません。

そこでアーティストがそういった思想や価値観の差異を表現することで、常に新しい疑問を社会に投げかけ、国を動かしているんですよね。

だからこそ、アートのみならず、アート的な発想を広めることに意味があると思いますし、これからの日本にとっても大事なのではないでしょうか。

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(写真:ami)

アート業界の閉塞感を打ち破る方法

どのような部分に課題を感じていますか。

アート業界は閉鎖的で分かりにくい部分があります。

私自身、もともと美大・芸大関係者ではなかったので、アート業界で何かやりたいと思ったときも、非常に大変でした。

閉鎖的になっている大きな理由は2つあると思います。1つ目は、アートが投資の側面を持っている点です。

ギャラリーや、ECサイトでさえも、作品の価格を全て公開しているサイトはほぼありません。クローズドなマーケットを形成し、匿名のコミュニティで売買した方が都合がよいお客さんもいます。そういった側面もあり、わざと閉鎖的にしているのではないでしょうか。

2つ目は、アーティスト自身が作品をいかに上手に制作するかにフォーカスしすぎていて、販売戦略や需要と供給の管理といったマーケティング視点まで考えている人が圧倒的に少ないからです。

その結果、作品が美大や芸大と社会が繋がらず、我々の目に触れる機会も少なくなってしまっている現状があります。

閉鎖的な構造は日本に限りますか。

基本的には海外でも変わりません。

しかし、海外では作品を販売するためのマーケット選定といったビジネス的な要素も教える美術大学もあります。そういったところでは、ソーシャリー・エンゲージド・アートなど、社会との関わり合いを常に探求し、オープンなアートシーンも見られます。

しかし現状、市場のメイン購買層は富裕層であり、国による差異はあまり見られません。地球全体的に見ても、アートマーケットが閉鎖的な現状はたいして変わらないでしょう。

そもそも、17世紀からこのマーケットは変化が無いとも言われています。

つまり、食で言う「ミシュランの5つ星を得ること」しかアートマーケットで生き残る手段は無かったのです。しかし、食の世界では「食べログ」のように一般人でも食に「通」な人が評価出来る土壌が出来つつあります。アートの世界にも、テクノロジーの力でこのような新しい評価経済を作りたいと考えています。

まさに今アート業界に変革が起こり始めていると。

そうだと思います。アート業界のメインプレイヤー層が変わってきており、だんだんと若い層もアートへ関心が高い人々が増えているように感じます。

みなさんもアートの販売というと、百貨店や画廊での販売をイメージされる方も多いのではないでしょうか。

日本ではアート作品の売上の60%以上は、百貨店、ギャラリー、アートフェアの3つで占められており、年配の方が買うリピーター市場でした。

しかし最近は、30~40代でも国際経験を積んだ方を中心に、アートフェアやオンラインで作品を買うようになってきています。

大きな動きとして、積極的にコレクションを発信するZOZO(ゾゾ) 前澤さんのような方も出てきました。

コレクターとして、自分が持っている作品をPRし、作品価値を自ら上げていくスタイルは今まで見られませんでした。メディアやSNSを使って大々的にPRを行い、需要を拡大していく方法は、これから市場を開かれたものにするにあたって必要なことだと思います。

ただ注意しなければならない部分もあります。そもそも実力不足のアーティストが、PRのみで成功し有名なコレクターが付くと、実力とはかけ離れた価格に一時的に上がり、その後値崩れしてしまう危険性があります。そのような「バズ・アーティスト」現象を防ぐためにも、私たちが適切にマネジメントを行う必要があると考えています。

そういったリスクも踏まえた上で、どんどん新しいアートのエコシステムを私たちで作っていきたいです。

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文・写真:ami (後半に続く)

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