スタートアップが成長する上では避けて通れない資金調達。

資金調達は採用、事業開発に並びスタートアップにとって非常に重要なものにも関わらず、投資家との交渉や投資後の情報共有など、実務部分の多くがブラックボックスになっているのが実情だ。

起業家、VC、エンジェル投資家などスタートアップを俯瞰するように多様な立場を経験されてきた砂川氏が立ち上げたsmartround(以下、スマートラウンド)は、SaaS × 資金調達管理のプラットフォームだ。

「スタートアップは多様なプレイヤーがいるが、メインは起業家だと思います」と話す砂川氏はどのように「資金調達プラットフォーム」の必要性を感じ、起業に至ったのか。

偶然の出会いの連続が、起業に繋がった

スマートラウンドはどのような事業ですか。

スマートラウンド 砂川さん(以下、砂川さん) スマートラウンドは、スタートアップに対しては資金調達業務と株主コミュニケーションの円滑化を、投資家に対しては投資事業におけるソーシング、クロージング、モニタリングの効率化を実現するプラットフォームです。

スマートラウンドを通して多くのスタートアップが日本でも生まれてほしいという思いで開発をしています。

砂川さんは多様な経歴をお持ちですよね。

ざっくりと経歴をいうと、三菱商事に入社し、ハーバードにMBA留学した後、現地で独立系のVCを経て、位置情報のスタートアップを創業しイグジットしました。その後、GoogleでMapsのPMとAndroidの統括をやった後、今の会社を創業しました。

もともとドが付く帰国子女でフィリピンやメキシコ、アメリカに住んでいました。新卒で三菱商事に入社したのも、グローバルで仕事ができて、MBA留学の仕組みがあったからです。

入社してプラン通り2001年にハーバードMBAに留学しました。プロジェクトファイナンスを学びにいきましたが、実際にはもっと広い範囲を学べたので、視野が広がりました。

MBAに行ったあとはどのような計画を考えていたのでしょうか。

私は社費派遣だったので卒業後は帰国する予定でしたが、eBay(イーベイ)の当時CEOだったメグ・ホイットマンの講演を直接聞いて、Eコマース上で、いろいろなものがCtoCで売り買いできる世界に感銘を受けました。

20190422 スマートラウンド砂川さん-2 (1)

(写真:ami)

そこからeBayのモデルと位置情報と時間を掛け合わせたビジネスアイディアを思いつきました。ハ―バードでは受けがよかったのですが、三菱商事ではまったく受け入れられませんでした。

うまく着地できず悶々としていましたが、結局はビジネスモデル特許を出願しながら、起業に備えてベンチャーキャピタルで働くことにしました。

当時もハーバードの学生は起業が身近でしたか。

当時の日本に比べれば多かったとはいえ、40%がIB(投資銀行)、40%コンサル、10%が普通の会社で、残りの10%がスタートアップといった状況でした。

私も1年生と2年生の間にはIBとコンサルでインターンをしましたが、どちらもフィットしませんでした。自分は8時間寝ないと生きていけない人なので、長時間働くような自信もなかったので。ただ起業してわかったことですが、起業のほうがよっぽど辛いですね(笑)。

ビジネスモデル特許はどのように書いたのですか。

自分では書くことができなかったので、ハーバードの川向うにあるMIT(マサチューセッツ工科大学)に何回も特許を書いているNTTの技術者が留学していたので、ロブスターをご馳走して書いてもらいました。

申請が通るまでに3年はかかると言われたので、その間にスタートアップの勉強をしようとベンチャーキャピタルに転職しました。

なぜベンチャーキャピタルにしたのですか。

私が入ったGlobespan Capital PartnersというVCは、もともとジャフコアメリカだった会社です。

ジャフコアメリカのパートナーだった2人がスピンアウトしてつくった会社で、管理しているファンドには日本の企業もLP(VCファンドに対する投資家)として入っていました。

その人たちとのコネクションはスピンアウトした後も守る必要がありました。つまり日本人が必要という状況だったので、ディレクターという非常にいいポジションでパッと入れました。LPマネージメントと、案件のデューデリジェンス(投資先の価値やリスク調査)をお手伝いする仕事内容でした。

VCで3年程過ごし、その後ロケーションバリューを創業されたと。実際に創業すると、プラン通りではないこともありましたか。

2005年~2012年の期間、ロケーションバリューの事業は本当にジェットコースターのようでした。ご存知の通りリーマンショックが2007年にあり、その時はすべてのビジネスが一旦止まり、本当に真っ青になりましたね。

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(写真:公式ページ)

そのあと、2012年にNTTドコモさんに事業を売却していますが、どういう経緯だったんでしょうか。

2番目に始めたビジネスがかなり伸びてきたときに、NTTドコモからお声がけをいただいきました。

その後事業をイグジットしたときは、複雑な感情が入り混じりました。ようやく1つのマイルストーンに達したことでもあり、不安に思う従業員に対しても答えが出せた訳です。

一方でその事業は自分の子どもみたいな存在なので、里子に出すようなイメージでした。悲しくはありませんでしたが、最後ハンコを押した帰りのタクシーでは泣きました。

イグジットによる資産もあったかと思いますが、Googleに入社されたのはなぜですか。

もう1度起業しようと思っていたからです。起業するにあたって一番困るのは、エンジニアの採用だと思っていたので、Googleなら最も優秀なエンジニアがいそうだし、働いてみようかなと考えて入社しました。

Googleに入社した時はエンジェル投資もされていましたよね。

はい、ありがたいことにいろいろな投資をさせていただきました。

エンジェル投資は、まだまだ教科書的なものがなかったので、みんなで知恵を集めて再現性のあるいい投資手法の確立を目指して研究会を立ち上げましたが、そもそもエンジェル投資家があまりいないという理由で、けっこう厳しい状況に陥りましたね。

VCも経験されて、起業してイグジット、さらにはエンジェル投資も経験された上で、スマートラウンドで一番解決したい課題はなんですか。

「スタートアップ・ファースト」と私たちは言っていますが、本質的にマーケット自体が広がっていくために、スタートアップがたくさん立ち上がり、その人たちの頑張りを阻害せずに育てていくところ注力していく必要があると考えています。

今まで自分が学んできたノウハウを伝えられればと思っていますし、当時悩んでいたことを解決できるようなツールも提供できれば、と思ってやっています。

特に今のスタートアップ業界では、資金調達にみんな時間を浪費してしまっていると実感しています。

起業家の皆さんは事業ドメインについては非常によくご存知なので、そこはアドバイスする部分ではないと思っています。

なので、それとは関係の少ない調達周りに時間をあまり費やさないで済むようなサポートをするツールが必要じゃないかと思っています。

実際に経験して見えた起業家と投資家の課題

スマートラウンドのアイデアでその課題を解決したいなと思われたのは、どのタイミングですか?

NTTドコモにイグジットをした後に資金ができて、エンジェル投資を始めた後からですね。

投資先が増えていく中で、投資先の管理ができないことに課題を感じていました。一方で会っていた起業家さんたちは資金調達に苦労していました。

その時、両方の課題を一度に解決できるツールをつくったら面白いと思ったんですよね。

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(画像:TechCrunch https://jp.techcrunch.com/2019/07/01/smartround/

起業家の課題を具体的に説明すると、自分自身はベンチャーキャピタルにいたので、ある程度ファイナンスの基礎知識がありましたが、そもそも共通言語で話ができないぐらいファイナンスについて何も分かっていない人たちもいます。

「そんなことしちゃまずいよ」みたいな危険水域にいる人たちも多いので、親身にアドバイスしますが、とても時間がかかります。

そもそも情報の非対称性がこんなにあるのは、資金調達がブラックボックス化されているからだと思います。それを透明化し、標準化していくプロセスが必要です。

一方で起業家の方々が勉強することも大事ですから、双方が歩み寄っていくことも必要だと思いますね。

投資家側が抱えている課題はどういったものですか。

起業家の問題点とは違う話になりますが、一言で言えば管理が大変ということです。

投資家は生業として投資業務をやっていて、制約事項やルールがある中でやっています。投資先ポートフォリオについてモニタリングをしなくてはなりません。

ただし投資先の情報が必ずしもリアルタイムでアップデートされていなかったり、会社法的に必要とされている大事なドキュメントを間違えたりといった、問題が発生しています。

ですから投資先についてしっかりモニタリングできるツールは必ず必要だと考えました。そのツールとしてExcelが使われている状況を変えたいと思ったんですよね。

投資家も起業家も経験豊富な方ばかりではないので、プラットフォームに経験を溜めることも重要になります。一方でスタートアップに関連するビジネスは市場が大きくないこともあり、ビジネスを成立させるのが難しい側面もありますよね。

1つ勇気付けられる事例があって、Cartaという資本政策シェアツールを提供しているアメリカの会社があるんですよ。彼らは今やユニコーン企業になっています。

やり方によってはスタートアップに関連するビジネスでも大きくなれることを示してくれたので、そこを研究していきたいと思います。

資金調達の透明化で、スタートアップはもっと盛り上がる

実際のスマートラウンドの画面を使ってサービスをご説明いただけますか。

スマートラウンドでは、ファイナンスの知識があまりない方でもボタンを押せば、資本政策がつくれて、資金調達の準備が完了できるようなUIを目指しています。

まずスタートアップ側がどう使用するか説明していきます。

この画面は会社の情報を入力する画面ですが、投資家目線で「少なくともこの辺の情報は欲しいよね」というところを記載してもらっています。

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(画像:サービス画面より)

次は資本政策の画面です。右上の「新規入力」というボタンを押すと、イベントを1個ずつ追加していくことができます。

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(画像:サービス画面より)

「資本政策は逆戻りできない」とよく言うじゃないですか。しっかりイグジットまでのシナリオをつくっておくことが大事だと思います。

たとえば、IPOしたときに33.4%以上の株式を持つことを想定しているのであれば、「シリーズBのときはこれくらいの調達をして、シリーズAのバリュエーションはこれぐらいでいい」といった流れで逆算できます。

スマートラウンドの強みの1つは、そのシナリオを複数つくれることですね。

投資家、ステークホルダーとコミュニケーションできる画面もありますね。

みなさんはDropboxやGoogleドライブといったツールで会社の資料をシェアされていると思いますが、「この人に対してはこの情報を出してもOKだけど、この人に出すのはNG」といったケースがあります。

スマートラウンド1

(画像:サービス画面より)

ツールもいろいろと使用しているので、必要なファイルの場所がすぐに把握できないこともあります。資料を修正したりアップデートしていく中で、それぞれの方に違う内容の資料を同じバージョンとして送ってしまうこともあるんです。

なぜこういう事が発生するのかというと、起業家も忙しくてどのファイルを誰にあげたか分からなくなっているからです。

そこでタイムスタンプを利用することで、どのファイルがどのタイミングで送られたか分かるようにして、共有ドライブから同じファイルが見られるようになっています。

フォルダーはある程度プリセットされているので、どの資料を入れるべきか分かりやすいと思います。

今後、スマートラウンドをどう発展させて、どんな未来を実現したいかお聞かせください。

マーケットが小さいという話が先ほどありましたが、資金調達はブラックボックス化されているところが非常に多い分、透明化することによって大きなマーケットに広がる可能性はあると思っています。

現在のスマートラウンドはファイナンスに絞った機能を提供していますが、スタートアップの経営にはさまざまな課題がありますよね。

たとえばマーケティングや人員計画といったところで、そういうテーマに取り組んでいる企業と連携できるとよりマーケットが広がっていくイメージがあります。

そういう未来を実現していくためにも、どういう価値観を共有するような人と一緒に働きたいでしょうか。

大事にしている思いはやはり「スタートアップ・ファースト」です。いろいろな人が関わっている業界ですが、結局は起業家がメインであり主人公です。

その人たちをどうやって盛り上げていくか、盛り立てていくかというマインドセットを持った人と一緒に働きたいです。

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文・写真:ami

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