スタートアップ最前線

一度家を買うと数十年住み続けなければいけないのはリスク、だから賃貸にするー。

人によって真逆の立場となることもある。

この長きに渡って続いてきた不動産問題に、新たな選択肢を提示するスタートアップが、2019年7月にマザーズ市場に上場したツクルバだ。

ツクルバは中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」を通して、不動産売買の流動化を目指している。

持ち家 vs 賃貸論争に、中古マンション × リノベーションはどのような選択肢を示すのか。家の購入という高いハードルをいかにして越えやすくさせるのか。

ツクルバ 中村CCOは、事業の鍵は「メルカリが創ったフリーマーケット世界観」と「物件からユーザーを逆指名」と語る。

ツクルバの目指す世界観が、不動産業界にもたらす変革とは。

一気通貫の中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo」

cowcamoはどのようなサービスですか。

cowcamoは「中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム」として、不動産の情報メディアから物件の仲介まで、中古・リノベーション住宅に関係するサービスを一気通貫で提供しています。

売主の物件を取材し、豊富な写真と詳細なテキストをセットにして記事化することで、コンセプトやこだわりを買い手に届けるのが特徴です。

SUUMO、HOME’Sといった仲介を行わない物件紹介に特化した不動産メディアと、三井のリハウスといった物件仲介に特化した企業の領域をどちらもカバーしているわけです。

サービスカバー範囲

また、取り扱う物件は首都圏の中古・リノベーション物件に特化し、特定の人にピンポイントで届けることを意識しています。

中古・リノベーション業界では売り手側と買い手側をうまくマッチングできないことが課題でした。

売り手側はリノベーション再販事業者といわれる中小の会社も多く、買い手が求めるニーズを把握し、発信することに課題を感じている会社も少なくありません。

一方で、買い手側は物件ごとのこだわりが分かりにくく、好みの物件を見つけにくい環境でした。

例えば大手の不動産メディアを見ている人の中には、新築派や中古派、マンション派や戸建て派などいろいろな趣向の人がいます。

既存のメディアは多様なニーズの人全員をターゲットにしているため、特定の領域に興味がある人には物足りない内容になってしまいます。

そんな両者の課題を解決するのが、一気通貫の中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo」です。

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中村真広(なかむら・まさひろ)/ 東京工業大学大学院建築学専攻修了。建築家 塚本由晴氏のもとで学ぶ。不動産デベロッパーの株式会社コスモスイニシアに新卒入社。その後ミュージアムデザイン事務所にて、デジタルデバイスを活用したミュージアム展示や企画展などの空間プロデュースを経験。環境系NPOを経て、2011年8月に株式会社ツクルバを共同創業。

どのようにして売り手と買い手の課題を解決しているのですか。

cowcamoは、Apple MusicやSpotifyで新しい音楽と出会うのと同じように、物件と出会えるようなUX(ユーザーエクスペリエンス)を目指しています。

「買うかもしれない」自分の住まいを妄想しながら探せる、出会える。目指しているのはそんな体験です。

物件の買い手が使いたくなる体験を提供し、買い手が集まるから売り手も集まるといった「自律的成長サイクル」が機能するように、cowcamoは設計されています。

ツクルバビジネスモデル

(画像:ツクルバ公式資料)

ユーザー数が増え、いろいろな物件の希望条件を入れていくと、そのデータはcowcamo内のデータベースに溜まる。その結果、エリアごとに買い手が求めている価格帯や物件が分かってきます。

次にそのマーケット情報をもとに、適切な価格で買い手と売り手を素早くマッチングできるようにしたり、買い手が欲しいと思っている物件を市場に提供できるようにします。

その結果、ユーザーの購入ニーズに沿った中古のリノベーション物件が増え、買い手に欲しい物件がますます届きやすくなる。

この一連のサイクルをつくっています。

cowcamoはアプリも提供していますが、アプリではそのサイクルがより回り易いです。アプリの中にはMIX(特定の条件に合った物件をキュレーションする独自機能)というツールがあり、さまざまな趣味趣向に沿って物件がまとめられています。

自分が気になるMIXを選ぶことで、自分の好みという定性的な情報をもとにパーソナライズされたcowcamoになります。そうして、好みの物件と出会える確率がさらに高まっていく設計です。

そのうえで物件を検討したり、購入することになれば、電話をせずにアプリ内でエージェントとチャットで相談できます。

売り手と買い手が今まで手間に感じていた部分を、解決するUXの実装を目指しています。

カウカモUX

(画像:ツクルバ公式資料)

不動産業界にフリマの世界観を導入したい

ニーズが高まってきているとはいえ、不動産の購入は払う金額が大きく購入のハードルは高いです。中古物件の流通量を増やすには何が必要ですか。

まず前提として、マンションの資産価値についてお話しします。実は、マンションの資産価値は築後20年位までは下がりますが、その後は下げ止まるのが一般的です。

築20年以上経っているマンションでも、都心で価格が落ちにくいエリアの物件を買えば、中古だとしても資産価値が担保されやすいです。そう考えると、中古物件の購入ハードルは下がるんじゃないでしょうか。

また、cowcamoを使って「リノベーションした中古物件が売れるマーケットをつくり、気軽に誰もが物件を売り買いできる環境」を整えることで、流通量を増加を目指しています。

メルカリが実現した世界観を不動産業界にも導入するイメージです。

メルカリが出てきたおかげで、服のような消費財の買い方も変わってきと思うんですね。

メルカリによって「売れるから多少高くても買う」といった購買行動が浸透してきました。

2~3カ月着たものでも売れるので、「安いものより最先端の高い方を買っておこう」と考える人は少なくありません。

同じ世界観をcowcamoを使って、不動産の世界でも実現したいです。

自分が住みたいエリアの物件を買って数年住んでみる。その後、結婚や子供の出産といったライフスタイルの変化があれば、売却して別の物件を買う。

住宅をスムーズに売り買いできる世界をつくっていきたいです。

具体的にどうのようにしてユーザーに刺さるコンテンツを届けているのですか。

中古のリノベーション物件のマッチングで重要なことは、その物件に住みたい人が1人でもいれば良い点です。大勢の人が住みたくなる物件情報を、つくる必要はありません。

施策の1つとして私たちがこだわっているのが、物件ごとにつけているキャッチフレーズです。

特徴を表すキャッチフレーズを物件ごとにつけることで、物件側からターゲットを逆指名するイメージです。 物件にマッチしそうな人を想像しながら、その人に刺さるキャッチフレーズをつけています。

例えば、家族で住みやすい物件では家族が思わず興味を持つようなワードを、意図的にキャッチフレーズ内に使っています。

キャッチフレーズ例

(画像:cowcamo公式ページより参照)

中古のリノベーション物件は、先進的な人たちが買っている印象があるかもしれませんが、そんなことは全くありません。

都心に住みたい人の中では、ここ数年で中古のリノベーション物件が当たり前の選択肢になりつつあると思っています。

cowcamoもサービス開始時は、新しいサービスが好きなベンチャー界隈のユーザーが多かったですが、今は職種や業界に関係なく幅広い人が利用しています。

初めて家を買う30代もいれば、子育てが終わり都心にもう一度戻りたい夫婦など、ユーザーの年齢層も幅広いです。

中古リノベーション物件を購入したいと考えている、1人1人に刺さる物件情報をきちんと届けられれば、購入に繫がると思っています。

4年前に仕込んだ不動産改革への一手

なぜ中古 × 不動産購入の領域に参入しようと決めたのですか。

不動産購入の潮目が変わったことが大きいです。

2000年代後半ぐらいからリノベーションという言葉が、徐々に世の中に広がっていきました。

しかしその当時は、リノベーションはまだまだニッチな選択で、マンションギャラリーに行って新築で買う方が当たり前でした。

その流れが都心部での開発の余白不足が顕在化してから代わり始めました。もう東京の中心部には、開発できる余白はあまりないですよね。

新たに開発するとしたら、今あるものを一度潰して再び建てることになるでしょう。

都内には既に約5万3,000棟のマンションがあります(H25 マンション実態調査結果/東京都都市整備局)。一時期に比べ東京都心でのマンション開発も減り、新築の供給は都心部から臨海エリアや少し郊外などの周辺部に移っています。

その結果、良い立地のマンションを都心で買うなら、築30~40年の中古住宅や中古マンションを買う流れが強まっているんです。

流通戸数比較

マーケットも転換期にきており、首都圏に限ると新築よりも中古の方が物件の流通量が多くなりました。マーケット的にも、都心に住むならリノベーション住宅の選択肢を無視できなくなってきたわけです。

条件に合う中古物件を買い、住みやすい間取りにリノベーションして住む。この考え方が浸透してきたのが、ここ10年でもっとも変わった部分だと思います。

実は新築も含めて現在のマンションの平均居住年数は平均で12~13年と言われています。35年ローンで買っても、最後まで住んでいる人は意外といません。

中古のリノベーションマンションだけで考えると、購入サイクルはさらに短いはずです。なので、物件量も中古物件に住むニーズも既に十分にあると考えています。

また生活者の中でもリノベーションの認知度は非常に上がっています。リクルート住まいカンパニーの調査では、「リノベーション」という言葉はほぼ全員が知っており、興味を持っている人も50%以上いるんです。

これは2016年に行われた調査ですが、2012年と比べると関心度が約2倍高まっています。

マーケットの規模感も非常に大きくなってきており、首都圏だけで中古住宅の市場は約1.6兆円あると言われています。

市場規模

(画像:ツクルバ公式資料)

1.6兆円の市場規模というと国内アパレルEC市場とだいたい同じです。マーケットとしても非常に期待がもてる領域になっています。

中古物件のマーケットも盛り上がりみせており、生活者の意識も変わってきている。この流れを生かすために、cowcamoを始めました。

次のステップに進む鍵は「コミュニティ経営」

上場を成し遂げたいま、次のステップに進むのには何が必要だと思いますか?

プロダクト的な側面でいうと、cowcamoでまだ網羅できていない地域があるので、そこをカバーしてツクルバの中で柱となる事業にしていくのが目下の課題です。

cowcamoのバリューアップに繋がる領域も、積極的に開拓していきたいです。

もう1つ、今後成長を続けていくためには、会社のあり方を変えていく必要があると感じています。

会社には事業体と共同体という2つの側面があります。

事業体的な側面とは、「会社を起点として、従業員、顧客、株主、取引先の4者が関わる」形です。

しかし事業体的な関わり方だけではなく、同じビジョンを共有し、一緒にアクションを起こす共感を軸にした関係性もあると考えています。

コミュニティ経営

(画像:ツクルバ公式資料)

たとえば、私たちは「場には、人生を肯定する力がある」という信念を信じ、「『場の発明』を通じて欲しい未来をつくる。」をミッションに掲げ組織や事業をつくっています。

そういったツクルバが掲げる「旗」に共感した人が参加する、経済圏としての側面も会社にはあるんじゃないでしょうか。

会社経営をしていると事業体的な視点に偏りがちですが、視点を変え共同体的な側面にも注力して経営していこうと思っています。

「従業員、株主、取引先」を「メンバー、サポーター、ユーザー」と捉え直し、「どうしたら仲間として同じ方向を向いて、事業運営やアクションを起こせるか」を考えて、経営していきたい。今後、会社の成長させるにはその視点が重要だと考えています。

いろいろな距離感で会社に関わってくれる人がいるのは当然ですが、真摯に関係者とコミュニケーションをとり、今やっていることを分かってもらう。

その結果、会社や事業に共感する人が少しでも長く僕らの株を持って応援してくれたら、そんな素敵なことはないじゃないですか。

会社のファンになってもらい、長期に渡って真の意味で応援してもらう。そういう経営をしていきたいですね。

上場後に事業が伸びず苦戦している企業も少なくありませんよね。今後事業を立ち上げるうえで気をつけていきたいことはありますか。

私たちは今まで複数の事業をつくり、運営してきました。

cowcamoやシェアードワークプレイス事業「co-ba(コーバ)」、家具・内装付きワークプレイス事業「HEYSHA(ヘイシャ)」です。

またツクルバの事業ではありませんが、ツクルバが出資しているコミュニティをサポートするツール「KOU(コウ)」もあります。

事業紹介

(画像:ツクルバ公式資料より)

これらの事業を立ち上げてきて感じたのが、「アート的な感性」の重要性です。

それらの事業が成功した理由を後から筋道立てて説明することはできます。しかし、事業をつくっていく瞬間はロジックだけでは説明できないことも多いため、感性が必要なんです。

ある意味、起業家はアーティストだと思います。

「こういう事業が世の中にあった方が絶対にいい」と自分の内側からブワッと想いが生まれ、事業がつくられていくんじゃないでしょうか。

アーティストが喜びや悲しみを表現したら、「予想もしなかった絵が生まれる過程」と「事業を0→1で作り出す過程」には近いものがあると思います。

例えば、cowcamoも予期していない2つの掛け算で始まりました。

co-baを利用していたデザイナーが、建築家と一緒に戸建て住宅をつくりました。その物件は奇抜な間取りだったにも関わらず、チラシやプレゼンテーションキットを用意して伝えることにフォーカスしたところ、物件のこだわりに価値を感じた人がすぐ現れて売れたんです。

その経験から、こだわって家をつくる人もそれを欲しい人も一定数いて、中古のマンションが今後増えていくなら、マーケットも必ず大きくなると感じました。これが1つ目のきっかけです。

2つ目のきっかけは、それまでの私自身の経験を通して、「作品としての住宅」と「商品としての住宅」の間の領域に可能性を感じていたことです。

大学院まで私は建築設計の勉強をしていたので、「作品としての住宅」に向き合っていました。その後不動産ディベロッパーに入社し、今度は「商品としての住宅」に向き合うことになりました。

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(Nick Starichenko / Shutterstock.com)

そんな中、不動産サイトに載っている住宅と建築家がつくっている住宅の間の領域に、ずっと空白を感じていたんです。

そしてツクルバを起業して約4年後、新規事業を探しているときにその2つの出来事を偶然思い出しました。

領域のポテンシャルもあり、自分たちが会社としてやりたいことだと直感的に感じたんです。それならやるしかないと思い、立ち上げたのがcowcamoです。

0から事業を作るとき、成功する気配感はあってもそうなる理由をロジック立てて、全て説明できないことは多いです。

アート的な感性でまずは0→1をつくりだし、走りながらロジックを組み立てる。そうして成功の確度を高めていくのが重要なんじゃないでしょうか。

それがこれまでのツクルバで行ってきた事業のつくり方であり、これからも同様に続けていくと思います。

ツクルバは「場には、人生を肯定する力がある」をFounder's Statementとして設定しています。

自分らしくいるためにチャレンジをしたいけれど、アクションを起こしたら世の中的に疎まれてしまうことは少なくありません。それってもったいないじゃないですか。

だから私たちは、みんなが素直にチャレンジできる場所をつくるためにco-baを始めたり、自分のフェチズムを全開にできる住まいと出会えるようにcowcamoを始めました。

これからも、1人でも多くの人が自分らしく生きられように、場づくりをしていきます。

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聞き手:松岡遥歌、文:町田大地

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