スタートアップ最前線 by ami

年々、訪日観光客は年々増えて2018年は3,000万人以上の観光客が1年間で訪れている。

しかし観光客は様々な課題を抱えており、その1つとして挙げられるのが「荷物の配送」だ。

その課題に対し、「空港とホテル間の配送」に特化して取り組んでいるスタートアップがいる。宿泊施設と空港間の手荷物当日配送サービスを提供する「Airporter」だ。

空港からの配送はヤマト運輸など配送大手も行っている中、どこに勝ち筋を見出しているのか。注目のスタートアップに話を聞いた。

前編では、インバウンドの最前線サービス「空港⇔ホテルの配送」が秘める可能性について、Aitporter CEO泉谷氏のインタビューをもとに解説する。

訪日観光客が抱える課題

観光庁の調べによると、訪日観光客は年々増加しており2018年には対前年比8.7%増の3,199万人が訪れている。今後も増加が見込まれており、政府は東京五輪・パラリンピック開催の2020年に訪日観光客4,000万人の目標を掲げている。

訪日観光客推移

訪日観光客の65%が観光中に不都合を感じたとしている。

言語や通信環境といった課題に対しては、音声翻訳機「ポケトーク」や通信企業大手による無料WiFiを設置するといった対策が講じられてきた。

しかし、まだ対策が追い付いていない領域もある。国交省の調べによると約70%の観光客が空港↔ホテル間の当日配送を希望しているにも関わらず、そのニーズに対応しているサービスは少ない。

そこに取り組んでいるのが手荷物当日配送サービス「Airporter」だ。宿泊施設をチェックアウトする最終日に発生する荷物を運ぶ煩わしさを、チャットと配送システムを活用して解決するサービスだ。

ラストワンマイルをめぐる攻防

手荷物問題の解決法としてよく利用されるのが「一時預かりサービスの利用」か「空港までの配送サービスの利用」だ。前者は宿泊ホテルやコインロッカーが活用されることが多い。また、後者は大手運送企業を始め複数の業者が提供している。

しかし、そこには改善の余地がある。一時預かりの場合、預けた場所へ荷物を取りにいく手間がかかり、旅行中の行動範囲や活動時間に制約を受ける。また、空港配送サービスも多くの場合集荷日が2~3日前に設定されており、荷造りのタイミングやお土産の購入などを考慮すると不便が多い。

そこに注目し「当日配送」に特化したサービスを提供するのがAirporterである。

上記区間における当日配送の市場規模はAirporter社の試算によると200億円程度とみられる。配送大手が競合になりそうだが、当日配送に対応しているサービスは少ない。

サービス比較

大手企業は多品種目を大量に配送できることに強みをもっている。それを実現するために、集めた荷物を仕分けセンターに一度荷物を集めてから目的地に配送する仕組みを構築している。

例えば、渋谷から浅草に荷物を送る場合も1度仕分けセンターに集めてから配達するといったイメージである。

配送フロー

大手配送会社の輸送フロー例(画像:ami)

そのため、即日配送ニーズへの対応は難しい。Airporterは配送経路を空港⇔ホテルに限定することで、配送センターを必要としない配達網を構築し、即日配送を実現している。

サウスウエスト航空がこれと似たビジネス戦略をとっている。

アメリカでは国内路線を運行する際に、大きな空港に周辺の町からユーザーを集め、大型飛行機で輸送するハブ&スポークといった方法をとっていた。

しかしサウスウエスト航空は、2次都市と2次都市を直接結び高回転率で運行することで大きな利益を得ることとなった。

その戦略をAirporterは活かして、東京のホテルと成田空港や羽田空港といった数十キロの短距離区間を高回転率で直接配送するシステムをつくることでビジネスを成り立たせている。

airporterビジネスモデル

また、配送物を「スーツケースに特化する」ことが参入障壁になっている。

日本でもEC事業が広く普及したことで、直近10年で配送量はおよそ1.4倍増加した(国土交通省調べ)。急速な荷物量の増加に対して配送各社は荷受量の総量規制を行うことで健全な経営を維持している。

その観点からみるとスーツケースは大きい割に料金を高く設定しにくいため、小型のレターパックなどに比べ旨味が少ない。

たとえばレターパックは全国一律で1通360円なので、7枚運べばスーツケースと同程度の売上となる。しかし、大きさと重量の点で配達コストは圧倒的にレターパックが少ない。

大手企業にとっては、スーツケースの運送は収益性を考えると合理的な意思決定と判断しにくいのも、同領域への参入障壁の1つと考えられる。

海外でもAirporterの発展版とも捉えられるドライバーと荷物の送り手のマッチングサービス「Lalamove」がおよそ100億円を調達するなど、荷物配送のラストワンマイルに取り組むスタートアップのポテンシャルは大きい。

今回はAirporterの強みと今後の戦略について泉谷CEOに聞いた。

解決する2つの課題

Airporterは「荷物を集め、それを運び、保管する」といった3つの事業領域があります。

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泉谷 邦雄(いずみたに・くにお)/ 早稲田大学在学中に貿易会社を設立、大学院卒業後は"生きた商売"を学ぶために、路傍の焼き芋屋を創業。2015年8月から民泊事業を手がけ、関連物件で累計2000人を受け入れてきた。観光客に「手荷物」についてのニーズがあることに気づき 2017年11月 株式会社Airporter 設立。代表取締役就任。

荷物は提携しているホテルならいつでも集荷を頼めるようになっています。提携ホテル数は順調に増えていて、1年弱で東京40,000室、大阪12,500室と提携し、全体の25%以上のシェアを獲得できました。最近では、東京内の全APAホテルグループと提携が決まりました。

契約数推移

(画像:Airporter公式資料)

提携がここまで急激進んだ背景として、ホテル側も荷物の悩みを抱えていたことが大きいです。

チェックインやチェックアウト時に、荷物がホテルのフロントに所狭しと並んでいる光景を見たことがあるかと思います。荷物を預るスペースを十分に確保しているホテルは非常に少ないからです。

荷物現状

それらの溢れた荷物をAirporterを利用すれば解決できるのも提携の後押しになりました。配送は独自に配送企業と提携し、タグを用いた荷物管理を行うことで効率的な配送を実現しています。

事前にWeb上で集荷場所や送り先、送る荷物といった情報を登録しオンライン決済をすることで専用の予約番号が生成されます。伝票の記載が必要ないので今までの訪日客が感じていた配送サービスの手間がなくなります。

利用の流れ

利用方法(画像:公式サイト)

荷物はJALABCと提携して各空港で預かってもらい、そこに取りに来てもらうフローにしています。預かってもらえる場所があるのはとても重要です。

サービスの仮説検証時、ユーザーの荷物を渡す専用の場所が空港になかったので、空港の一般乗降レーンで直接渡してもらっていました。ただそれだと受取時間にユーザーが遅れた場合、配送ドライバーは次の仕事が入っていたりするので、そんなに待てないんですよね。「荷物を取りに来るのを待ちたいけど、待てない」という状況ですね。

また、仮に待てたとしてもサービスの回転率が上がりません。

サービス特徴

Airporterが提供するメリット

Airporterが解決している課題の1つは荷物問題ですが、もう1つ提供している価値があります。それが観光時間の創出です。

以前ユーザーから、「Airporterを使うと荷物を取りに戻らずに直接空港に行けるので、その分時間ができ予定にないところまで行けて満足」と言われました。

それを聞いて、私たちは荷物運びの問題だけでなく「時間も創出している」と気付けました。今は「世界の観光時間を創出する」をミッションに日々頑張っています。

サービスの原点は民泊運営

もともと民泊を10軒ほど経営していたときに、利用者から「観光中に邪魔になるから荷物を預かって欲しい」といった問い合わせが非常に多かったんです。

しかし民泊はホテルと違ってクロークがないので、荷物を預けられません。そこで、駅にあるコインロッカーを代わりに使ってもらおうとしたのですが空いていませんでした。

それなら宅配サービスで空港まで届けてもらおうと電話をしたのですが、当日配送に対応していない企業がほとんどでした。

最終的に、自分でレンターカーを借りて空港まで行って渡したのがAirporterの原型です。

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(画像:Olena Yakobchuk / Shutterstock.com)

しかも当時、荷物の問題は訪日観光客の困りごととしてあまり認知されておらず、観光庁が公開している困りごとランキングに入っていませんでした。

つまり、事業を始めるチャンスだったんですよね。会社組織に属していて新規事業を始める際、「始める理由となる客観的なデータを示せ」と言われることが多いと思います。

しかし、観光庁の例もそうですが荷物の課題に対するデータは当時ほとんどありませんでした。つまり荷物の問題は「ニーズは確かにあるがデータが少ない問題」だったので、素人の自分が始めても競合が出てくるまでリードタイムがあると考えたんです。

また、自分のポリシーとして「まずやってみる」の考え方を大切にしています。民泊をやる前にも貿易商や焼き芋屋をやっていました。特に焼き芋屋でその重要性を学びました。

ある時メンターに「生きた商売を学べ」と言われ、焼き芋屋に挑戦することになりました。

器具の準備などを考えて初期費用200万円で始めようとしたのですが、メンターから資金として渡されたのは5万円でした(笑)。最初は「さすがに無理です」となったのですが、「5万円で本当にできないかどうか、やっていないから分からないだろう」と言われた訳です。

そこで焼き芋屋を成り立たせるために死ぬほど考えました。例えば、提供する「場所」問題は本当に知恵を絞りました。

5万円だと移動販売車や売店スペースを借りられません。そこで、快く場所を貸してくれる人を考えたとき、移動販売をしている人に行き着きました。

移動販売の方は、売れる場所を見つけたら定期で貸りて確保していることが多いです。そして、基本的に1人親方なので、最も売れやすいランチをピークに設定して売り、その後は、仕入れと仕込みをする必要があります。

つまり、売れる場所が「遊休資産」になる時間帯があるんです。

そこでピークを過ぎた15時以降の使っていない時間に場所を貸してくれないか頼んだところ、快く受け入れてくれました。貸す側も使っていないのにお金が入ってくるので、デメリットはほとんどありません。

その結果、1日800円で貸してくれました。軍資金が5万円だったので、これは大きかったですね(笑)。

最終的にこういった工夫を凝らしたところ、5万円で始めた焼き芋屋は軌道にのり、番組に取材されるまで成長しました。

何事もやってみないと結果は分からないんですよね。そういった経験もあり、配送領域は全く未経験でしたがAirporterを始めました。

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(画像:ami)

攻めに転じる

今までは、意図的にメディアへの露出などは基本的に控えるようにしていました。

スタートアップは機動力や速さといった強さがありますが、その他はもろいと思っています。なので、ステルスで開発をし、リソースをしっかり築いてから浮上するのを基本的な戦略として描いていました。

私たちの場合は一定数のホテルとの提携獲得や配送システムの安定化、空港における荷物カウンターの設置といった最低限必要なインフラが整うまでは潜ると決めていました。

それが整っていない状態で露出をしてしまうと、「いい市場」といったイメージだけで参入してくる競合が出てきて、不必要な競争が必要になると思うんですよね。そうすると、結局自分達がやりたいことやできることと、やるべきことが合致しにくくなってしまいます。

そういった背景を踏まえて、やっとホテルシェア25%といった一定のインフラを構築できたので、ここからは認知を取りにいきます。

サービスとしても次のステップに進もうと考えています。私たちのミッションは「観光時間の創出」です。ホテルからの荷物配送の他に「観光客の時間を奪っているもの」は買い物です。

今、新宿にあるビックロで実証実験を行っています。新宿に来る観光客の多くはレストランやホテルが非常にたくさんあるため、それを利用するために来ています。

ただそれらの予約をしていても、迷うといった不測の事態に備えて早い時間に来ることは珍しくありません。そうなった場合に、予約までの空いた時間で買い物ができるかと言うと、買い物はなかなかしづらいんですよね。

なぜなら、その後食事をするのに買い物の荷物を持っているのって手間だと思いませんか。 とくに海外の方はまとめてたくさん買うことが多いので、かさばります。

そこで買ったものをそのままホテルや空港に送れる仕組みをつくれれば、食事などの前の空いた時間での買い物を100%楽しめるんじゃないかと考えています。

私たちが配送の部分をサポートすることで、買い物をしたかったけど荷物が気になってできない状態がなくなり、楽しみが増える。まさしく観光時間の創出です。

なので、ホテルと並行して小売店の開拓にも注力し、「予定を気にせず買いたい時に買い物ができる世界」をつくっていきたいです。

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聞き手:松岡遥歌、文:町田大地

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