2019年7月31日、東証マザーズに中古住宅の流通プラットフォーム「cowcamo」を展開する不動産テックスタートアップのツクルバが時価総額191.3億円(初値ベース)にて上場した。

2011年に「人と人、人と情報が交錯する「場」をつくりたい」という想いのなかで生まれ、約8年かけての上場を行った。株主のなかでもひときわ目立つエンジェル投資家の存在。スタートアップが盛り上がり、エンジェル投資家が増えていくなかで求められる役割とは。その好例となるファイナンスを見てみよう。

cowcamoリリースがターニングポイント。累計資金調達額9.1億円、時価総額191.3億円

ツクルバは、大きく分けると上場までに4回の資金調達を行い、設立からおよそ8年、未上場時での累計資金調達額9.1億円、時価総額191.3億円(初値ベース)で上場した。

2016年以降上場したスタートアップにおいて、設立から上場までの年数中央値が約11年、上場時の調達前企業評価額中央値が110.3億円(初値ベース)であるのと比較して、素早く大きく成長した注目の上場であったことが改めてうかがえる。

上場までのファイナンスをみると、2015年を境に会社の色が大きく変わっていることが特徴だ。

2015年は、現在の主力事業であるリノベーション・中古住宅流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」をリリースした年である。

ツクルバは、コワーキングスペースの火付け役ともいえる「co-ba(コーバ)」を渋谷に設立することからスタートしている。co-baは現在、全国22箇所に展開している(2019年9月28日時点 公式サイトより)。

その後、空間デザインへ乗り出し、メルカリやアカツキ、日本交通などのオフィスを手掛ける。

これらの現シェアードワークプレイス事業から始まり、その後、不動産にテクノロジーをかけ合わせたcowcamo事業を立ち上げる。cowcamoは、従来の中古市場のバリューチェーンをテクノロジーを用いて垂直統合し、物件と買主だけでなく、住宅エージェントと買主をマッチングするプラットフォーム型であることが特徴だ。

2015年1月、cowcamoのβ版リリースとシード調達実施を皮切りにスタートアップとしてJカーブを描き、急成長を遂げていく。

すでにシェアードワークプレイス事業で黒字だったにも関わらず、投資を受けた理由を村上CEOは自身のブログで”目指すべき地点に到達”する為と前置きし、「確かな自信と覚悟の元で、未来の設計図からの逆引きをして投資を受ける決断をしました。」と記している。

最新の2019年7月期セグメント別の売上高を確認すると、現在ではcowcamoが売上高全体の8割以上を占めるまでに成長している。

成長後、シリーズBでのエンジェル投資

ツクルバの各ラウンドの投資家を確認する。

最も特徴的なラウンドはシリーズBだろう。成長フェーズの投資にも関わらず、引受先がエンジェル投資家のみで構成されている。本ラウンドでは、4人のエンジェル投資家により転換社債にて約1.5億円の投資が行われた。

エンジェル投資家とは、創業して間もないスタートアップを中心に資金を提供するとともに、経営などに関するアドバイスを行う個人投資家のことであり、一般的にEXIT経験がある起業家や引退した起業家が担うことが多い。

シードラウンド後、成長・拡大していくフェーズにおいて、エンジェル投資家のみで構成されるラウンドをもつ例は珍しい。実際、entrepediaではシリーズB以降でエンジェル投資家のみから資金調達を行ったラウンドは、ツクルバ以外に確認できなかった。

また、ツクルバにはシリーズBだけには限らず、株式の移動や新株予約権の付与により、多くのエンジェル投資家が株主として参画している。

同程度の200億円前後の時価総額(初値ベース)で2016年以降に上場したITスタートアップ3社と比較すると、ユーザベースとカオナビはエンジェル投資家がおらず、ウォンテッドリーはエンジェル投資家が4名と、ツクルバのエンジェル投資家が多いことが確認できる。

さらにその中でも、佐藤裕介氏、佐藤道明氏は上場時の大株主としても記載されており、重要な役割を担ってきたといえよう。

ツクルバの特徴であるシリーズBとエンジェル投資家の多さは、企業のスタンスを体現しているといえる。

実際に、佐藤裕介氏はアドバイザーを経て、社外監査役として参加、佐藤道明氏は、共同でコミュニティコインを扱うKOUを設立。

福島良典氏はGunosyを通じてブロックチェーン技術の不動産分野適用の共同研究、次原悦子氏はツクルバチアリーダーを自称し、上場のセレモニーに参加するなど、多くのエンジェル投資家が強い思いでツクルバとつながりを持っている。

エンジェル投資家だけではなく、シリーズAでグロービスキャピタルパートナーとして投資を行い、社外取締役として就任した上村康太氏は、インタビューで「心から良い会社だと思っているのに、なぜ俺が入らないんだろう」という悩みがあったと答えており、その結果、ツクルバへ転職した。

ツクルバにとって、投資家は単に成長するための資金の担い手にとどまらず、ともにツクルバを大きくしていく担い手であることがファイナンスに表れている。

国内のエンジェル投資の現状

ここで、国内のエンジェル投資について確認しておく。

エンジェル投資家からの投資は、一般的に創業間もない創業者や近親者の自己資金以上、ベンチャーキャピタルからの投資未満の間をつなぐ位置づけとなることが多い。

実際に国内の投資を見てもエンジェル投資家が主に投資する場面は、創業直後のエンジェルラウンドから数年程度のシリーズAまでがほとんどを占めている(entrepedia調べ)。

過去より日本は「エンジェル投資家が少ない」と指摘をうけることが少なくない。2016年の世界のエンジェル投資家の投資額が約2.48兆円(2016年期末レート116.49円にて換算)(Jeffrey Sohl,「A Cautious Restructuring of the Angel Market in 2016 With a Robust Appetite for Seed and Start-Up Investing」)であるのに対して、2016年度の国内のエンジェル投資家の投資額は約34億円(経済産業省「ベンチャー支援に関する取り組みについて」)と非常に小さいことがわかる。

これは、将来のエンジェル投資家になりうるスタートアップの起業家が少ないことも要因の1つといえる。

起業活動の実態や国家経済に与える影響の調査「Global Entrepreneurship Monitor(GEM)」によれば、日本の2018年における起業活動の水準(TEA)は4.7から5.3に上昇したものの、調査対象国48ヵ国中44位と依然低水準にとどまっている。

別の調査でも、起業準備者含む起業希望者は2007年の257.5万人から、2012年には226万人へと減少傾向にある(中小企業省 「2017年版中小企業白書」)。

GEMの起業に対する意識調査項目の1つである「失敗に対する恐れ」とTEAをG20諸国で比較してみると逆相関の関係がみられる。日本はこの「失敗に対する恐れ」が阻害要因の1つであるといえる。

しかし、過去において「失敗に対する恐れ」は米国と比較しても同水準であったことがわかる。

起業活動のフレームワークの日米の点数を比較すると、文化慣習が最も大きく離れており、次に、学校教育や社会人教育の教育が続く。これは、文化慣習や教育として起業に触れる機会がなく、「起業が身近にない」と言える。つまり、日米の起業意識に差があるのは、失敗を許容する文化的な背景だけでない。「失敗することが怖い」のではなく、「知らないからやらない」ことも背景の1つとして考えられる。

したがって、エンジェル投資家は、単なる資金提供者の役割に留まらず、実際の起業経験者として、未来の起業家の創出につなげるために、起業を身近にする役割への期待もかかる。

ツクルバが示すエンジェル投資家とのつながり

これから、エンジェル投資家は増えていくのか。

国内のエンジェル投資家の投資額は上昇傾向にあり、2016年度は約34億円であった。

この背景には、2013年以降スタートアップへ資金が集中していることも合わさり、大型上場が増えていることがあげられる。その象徴として、2018年にメルカリが6,766億円(初値ベース)、2019年にSansanが1,425億円(初値ベース)のユニコーンとして上場している。

スタートアップ全体をみても、上場時の時価総額(初値ベース)は大きくなっている。

スタートアップの資金調達は大型化しており、今後も未上場市場でレイター調達まで行って上場するケースが増えるだろう。そして、それに伴いエンジェル投資家となる人物は増えていくと予想される。

ツクルバのアーリーフェーズで創業者に続き、社外取締役として参画した高野慎一氏は「創業者の二人は”金を残すは下、事業を残すは中、人を残すは上”を体現したいと言っていた。」とインタビューで語っている。

ツクルバはビジネスモデルだけでなく、特徴的なファイナンスでもそのことを示した。

エンジェル投資家と強い思いでつながっていく。

ツクルバのファイナンスは、今後エンジェル投資家が増えるなかでの好例となるのではないだろうか。

(データ:entrepedia、編集:森敦子、執筆:福井健史、デザイン:廣田奈緒美)

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