法務に広がるAIの波。弁護士・クライアントの本質的業務を創るSaaSの実力

2019/08/22

リーガルに関する課題をITで解決する“LegalTech”。2015年には契約クラウドのはしりである、米国のDocuSignがIPOするなどLegalTechは順調な広がりをみせている。

AIやブロックチェーンなどの新技術を用いて、法曹業界や企業の法務領域にアプローチするものが代表的だ。

法律事務所の代表も兼務するGVA TECH株式会社創業者の山本俊氏は、弁護士とクライアント双方が抱える契約書レビューの非効率な実態に直面。双方の課題を解決するために「AI-CON(アイコン)」を立ち上げた。

「AI」「SaaS」でどうリーガル産業を変革していくか解説する。

「SaaS」×「契約書業務」AI-CONとは

AI-CONはAIによる契約書レビュー・作成支援サービスで、企業の法務担当者や法律事務所に加え、法務部や顧問弁護士を持たない中小企業やフリーランス、スタートアップ等の利用を想定している。

そもそもこのサービスは創業者の山本氏が弁護士として働く中で、「AIを使い、定型的な業務を効率化できないか」という思いから始まった。

一方で弁護士のクライアント側としても、部署内の人員だけでは膨大な数の契約書事務を対応することが難しいケースや、高額なため顧問契約弁護士にレビューを依頼しづらいといった課題があった。

弁護士とそのクライアントの双方で「定型的な契約書業務を減らし、より重要な業務に時間を割きたい」というニーズが存在していたのだ。

契約書業務を効率化したいというニーズに応えるべく、AI-CONは全プロセスの内、「契約書ドラフト作成」「契約書レビュー」「交渉」にフォーカスしている。

(画像:GVATECH会社資料)

この3つのプロセスに特化して、AI-CONが提供している機能は4つある。 1つ目が「契約書作成機能」だ。

(画像:GVATECH会社資料)

AIの質問に答えるだけで、ユーザーが必要とする契約書が作成できる。ひな型も複数の立場に応じたパターンが用意されているため、柔軟な対応が可能だ。

2つ目が「リスク判定機能」だ。

(画像:GVATECH会社資料)

ユーザーが契約書をアップロードすると、条文ごとのリスクが5段階で判定され、リスクを把握できる。それらの判定に加え、トラブルが多発する項目には参考事例も表示されるため、リスクを具体的に理解することも可能となっている。

リスク判定は直感的にわかりやすく表示されているため、法律の専門家以外でもシンプルに結果を理解できることが、AI-CON最大の特徴といえる。

3つ目が「修正例おすすめ機能」だ。

(画像:GVATECH会社資料)

リスク判定された契約書について、修正例は複数パターンを提示される。取引の実情に応じて作成側が自由に選択できる。

4つ目が「修正意図おすすめ機能」だ。

(画像:GVATECH会社資料)

契約書の修正交渉をする際のコメント案をAI-CON側で用意し、修正交渉する際のサポート材料として使用できる。

これらのAI-CONの機能を活用することで、レビュー時間と費用の削減以外にも、レビューの質が一定水準以上に統一される効果もある。

(画像:GVATECH会社資料)

実際に、年間1,000件ほどの契約書業務を数名で担当していた大手鉄道会社は、AI-CONの利用後、契約書業務が1日あたり数時間ほど削減され、事業部とのコミュニケーションや非定型業務に割ける時間が増えたという。 法務担当として本来注力すべき業務にリソースを割けられる環境を整え、AI-CONが最適に利用された好例といえる。

【対談】前田ヒロ×山本俊

後半は「SaaSway Conference」にて行われた、GVA TECH株式会社代表取締役の山本俊氏と、SaaSスタートアップに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」マネージングパートナー前田ヒロ氏の対談をお届けする。

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AIは弁護士業務をリプレースするのか

前田AI-CONは弁護士の業務をリプレースする可能性もあると思います。その点はいかがでしょうか?

山本実を言うと、弁護士は契約書業務をあまり行なっていないんですよ。時間をかけて対応しているのは「裁判」に関する業務なんです。

AI-CONは契約書業務を効率化するプロダクトで、より裁判に関する業務に集中できることを考えると、むしろ新たな弁護士の仕事を喚起すると思っています。

前田単純作業やペーパーワークはAI-CONが代替して、逆にクライアントや裁判と向き合う時間を増やすことができると。

山本その時間を増やすべきだと感じていたものの、契約書業務に時間を取られてしまう実態がありました。それを解決するためにAI-CONを作っています。

SaaSとAIの相性

前田AI-CONはなぜSaaSのビジネスモデルで展開しているのですか?

山本AI-CONの特徴は、2つあります。1つはAIを用いていること、もう1つは様々な企業の契約書を集めてデータ学習し、サービスの改善を続けていることです。

「データを共通化して、ユーザーに還元する」というAI-CONの特徴に一番マッチすると考え、SaaSを選びました。

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山本 俊 // 2012年にGVA法律事務所を創業。これまで1,000社以上を支援してきた中で、大企業とスタートアップ・中小企業間の「法務格差」を感じ、2017年にGVA TECH株式会社を創業。自らもスタートアップ企業の経営者として、AI契約サービス『AI-CON』など、リーガルテックを用いたプロダクト開発の指揮を執る。

前田データを集めて、ユーザーに還元することはSaaSの大きな特徴の1つですよね。特にAIや機械学習を活用する企業は、SaaSが合っていると思います。

SaaSのモデルを選んでよかった点は何でしたか?

山本サービスを日々改善できることですね。「あそこを変えたらもっとよくなるのに」と感じたら、随時アップデートできるのが魅力的です。

前田PDCAが回しやすく、常にアップデートできる特徴がよかったということですね。一方で、サービスを作る中で苦労した部分はありますか?

山本AIとリーガルが組み合わさったSaaS、という複数の観点で考えなければならないことは苦労しました。 そもそもAIは不確実性が高い技術ですし、同時に実装の難易度も高いです。

さらにはリーガルの仕様をプロダクトに落とすのも専門家の知見が必要ですから、その部分はいまだに苦戦しています。

前田技術的なハードルも高いんですね。

現状のサービスは完全にAIで動いているのか、それともまだ人が関与している部分があるんでしょうか。

山本データの形式を入れ直す部分が存在しているので、まだ人が関与していますね。 

前田普通のSaaS企業を経営するのと、AIを組み込んだSaaS企業を経営するのとでは、どのような違いがありますか。

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前田ヒロ // 2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。

山本SaaSについて書かれた記事の中では、「SaaSは確実性が高く計算しやすいし、様々な指標で評価しやすい」と言われることがありますよね。

一方われわれの場合、たとえばAIのエンジニアに「どれぐらいの期間でできそうですか?」という質問をしても、はっきりとした回答が出てこないんですよ。技術的な不確実性の部分が違っていると思います。

前田その不確実性を担保するためにどういう取り組みをされていますか?

山本そもそも「契約書業務をAIで自動化するぞ」というアイデアから始めた事業なので、最初はAIありきのビジネスモデルを考えていました。

しかし、AIで提供する機能が仮に上手くいかなかったとしても、最低限ユーザーに価値を出せるビジネスモデルをつくらないと、ある意味で博打になってしまいます。

そこは会社の体制やチームで担保できるモデルにしています。

法務格差のない世界の実現

前田どういったユーザーがAI-CONを使っていますか?

山本顧問弁護士費用を削減したいスタートアップに多く使って頂いてます。他には「自社だけではリーガル業務に自信がないので、ツールで補いたい」というニーズを持つ企業にも使って頂いていますね。

前田AI-CONは顧問弁護士と共存しながら活用されるのか、それともAI-CONのみを利用しているのかでいうと、どちらのケースが多いでしょうか。

山本共存しているケースが多いと思います。

ただし例外的なエピソードを紹介すると、私が所属している法律事務所の顧問先にAI-CONを勧めた結果、3社が顧問契約を解除したんです。「もうAI-CONでいいです」と。

ある意味では、我々が一番リプレイスされている気がしますね(笑)。

前田今後も課題は出てくると思いますが、中長期的に事業をつくる上で特に考慮している部分は何でしょうか。

山本特にスタートアップに向けては、リスクへの対応や契約書チェックの意義を伝えていく必要があると思っています。

リーガル業務に内在する課題かもしれませんが、リーガルの役目は「リスクを下げること」と捉える企業が多く、後回しにされることが多いですから。

前田最後に、サービスの未来をどう描いていこうとしているのか、どういう事業にしていきたいかをお聞かせください。

山本まずは契約書のレビュー機能を普及させることを目指します。それこそが我々の一番特徴的な機能で、今までになかったものですからね。

レビューを突き詰めた後は、中小企業やスタートアップにもAI-CONを普及させたいです。

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そもそも法律の世界は複雑で、弁護士や専門家は「法律の翻訳者」というイメージがあるかもしれません。

しかしAI-CONは法律をある意味で機械的に翻訳して、法務格差のない世界を実現するプロダクトです。

誰もが法律を使いこなせて、中小企業やスタートアップでも専門家や大企業と対等に話せるような世界をつくりたいと思っています。

前田弁護士が単純作業に関わる必要がなくなり、より重要な業務に時間をかけられる世界が実現できるといいですね。

(編集・写真:ami)

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