業界特化型AIチャットボット「KARAKURI chatbot(カラクリ チャットボット)」を提供するカラクリ株式会社は、シリーズAで約5億円(調達後企業評価額25.1億円)の資金調達を公表した。(※評価額はentrepediaによる推定であり、カラクリにより決定又は追認されたものではない。)

今回の資金調達を元に同社は「AIチャットボットのKARAKURI」から「CS Automation & OptimizationのKARAKURI」への進化を目指すという。

カラクリCEOの小田氏と投資家へのインタビューを中心に、シリーズAまでの成長の理由と、彼らが目指す「カスタマーサポート業務のデジタル革新」を紐解く。

ALL STAR SAAS FUND、ジャフコ、 BEENEXT2からシリーズAで約5億円調達。調達後企業評価額25.1億円。

カラクリは2016年10月に設立、2018年8月には約1.6億円の調達を行っている。

今回のラウンドはALL STAR SAAS FUND、ジャフコ、BEENEXT2を引受先とする総額約5億円の資金調達であり、ジャフコ、BEENEXT2からは2018年に続いての追加投資となる。

本ラウンドの調達後評価額は、シリーズAラウンドの中央値10.5億円よりも高い25.1億円になっている。評価額は市場規模やサービスの成長率などさまざまな要因から決まるが、中央値よりも高いことからカラクリに対する投資家の期待の高さが窺える。

(画像:”製造業SaaSのA1A、シリーズA調達。今後の戦略と投資家の期待”より引用)

「KARAKURI chatbot」は、カスタマーサポート宛てに寄せられる質問をチャットボットで自動的に回答し、質問回答業務の軽減を図るSaaSだ。

「チャットボットの正答率95%保証」「誰でも運用可能な管理画面デザイン」といった、導入後のスムーズな運用にフォーカスすることで他社サービスとの差別化を図っている。

今回の資金調達が実現した理由はどこにあるのか、小田氏に話を伺った。

カラクリ成長の鍵、「スクラムカスタマーサクセス」

昨年8月の1.6億円の資金調達時は、「今後1年で組織体制を30名程度まで整え、サービス導入社数100社を目指す」としていました。この目標を達成したことが今回の資金調達につながったのでしょうか。

小田 志門氏(以下、小田)組織については、10月31日時点でインターン含め41名です。

カスタマーサクセス(ユーザーに自社サービスを使いこなしてもらい、ビジネスの成功を支援する部署)やデータサイエンティストといった希少な人材も順調に採用できています。

一方で導入社数は未公開の企業も含め約50社と、1年前の想定より少ない数値でした。しかし既存ユーザーからの料金プランアップグレードによって、年間の売上は順調に伸びています。

我々はチャットボットサービスの中では後発の部類に入るため、1年前は「いかに導入社数を増やすか」にフォーカスしていました。

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小田 志門(おだ・しもん)/ 1980年京都府生まれ。2007年よりサイバーパトロール・インターネットのコールセンターBPOのイーガーディアン株式会社にて、取締役として営業部門、情報システム部門を統括。2017年10月カラクリ株式会社CEOに就任。

しかし、まずは既存ユーザーに確かな価値を提供することが重要と考え、人員の強化やカスタマーサクセス体制の構築にフォーカスすることを決めました。

その方針の変更が、期待以上の成長に繋がったと思いますね。

既存ユーザーの満足度は、成長性を見る上でも重要な指標ですね。

小田 アンケートは定期的に行っていますが、実はアンケートで計測したユーザーの満足度はそれほど重視していません。

新機能に対する反応や、他社や他部門への紹介、継続率といった「ユーザーの行動」を重視しています。

たとえば今年の10月に「有人チャット機能」をリリースしました。手探りな状況ではあるものの、すでに数社から本番環境で運用していただいています。

こうした新機能を積極的に導入いただいていることも、ユーザーがカラクリにどれだけ満足しているかを示す指標になると考えています。

「ユーザーの行動」にフォーカスしたことがカラクリの成長の理由の1つだと。具体的にどのような取り組みをされていますか。

小田 全社でカスタマーサクセスに取り組んでいることが特徴です。

カラクリの上半期の全社OKR(『Objective and Key Results』の略称、目標管理制度の1つ)で掲げた目標は、ラグビーにちなんで「スクラムカスタマーサクセス」です。

つまり、特定のチームに限らずカスタマーサクセスをやるということです。実はカラクリには「カスタマーサクセス」の名前がついたチームはありません。

いわゆる他の企業でいうカスタマーサクセスチームを「CXデザイン」と呼び、全ての顧客毎にCXデザインメンバーとデータサイエンティスト、Webエンジニアの3者でカスタマーサクセスチームを組んで、担当しています。

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(画像:Monkey Business Images/Shutterstock.com)

CXデザインがKPI設定や会話・業務設計を行ない、データサイエンティストはデータに基づいたユーザー体験の向上や社内外のオペレーション業務における自動化の判断を行います。そしてWebエンジニアは、各方面からの情報をふまえてユーザーにとって使いやすいシステムを作ります。

もしカスタマーサクセスの担当にビジネスサイド人材しかいなければ、ユーザーの課題をその場で解決することは難しく、一旦エンジニアに対応をお願いすることになりますよね。

タッグ制によって、ユーザーの悩みをより深堀りできるだけでなく、すぐに対応できる仕組みがカラクリの強みです。

2018年の投資はJAFCO、BEENEXTからの出資でしたが、今回も同じ投資家ですね。他の投資家から投資を受ける選択肢はありませんでしたか。

小田 実は複数の投資家からお声がけいただいていましたが、シードの段階からカラクリを支えてくださったご縁を大切にしたいという思いと、今後の経営で意思決定のスピードを早く保つという意味で、フォローオン投資で既存の株主に引き受けていただきました。

明確に「この目標を達成したら追加で投資します」と前回のラウンドでお話があった訳ではありませんでしたが、我々の成長を評価して今回も出資いただけたと思っています。

投資家からの評価と期待

本ラウンドで投資を行った前田ヒロ氏は、シリーズAでは次のようなポイントを見て投資判断をしているという。

(画像:”製造業SaaSのA1A、シリーズA調達。今後の戦略と投資家の期待”より引用)

前田ヒロ氏今回の投資にあたっては、カラクリの次の点を評価しています。

①サービスに対するユーザーの満足度

ユーザーの高い継続率、そしてアップセル率の高さがカラクリに対する満足度を表していると思います。

②サービスのログイン頻度や利用実績、ユーザーヒアリングの結果

ユーザーヒアリングを通し、ユーザーのみなさんがサービスに非常に満足していると感じました。プロダクトの品質もそうですが、特にサポートやバックアップ体制の手厚さに感動いただいているようです。

ユーザーの反応から、カラクリのサポートとサクセスに対する意識の強さを感じ取ることができましたね。

③創業メンバーから従業員への権限移譲ができている

進行中の部分もあればこれからの部分もありますが、権限委任はすでに始まっています。この事業フェーズでまず重要なのは「積極的に権限移譲を行っている」ことですから、良い形で進んでいると思います。

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前田 ヒロ(まえだ・ひろ)BEENEXT PTE. LTD/シードからグロースまでSaaSベンチャーに特化して投資と支援をする「ALL STAR SAAS FUND」、 マネージングパートナー。2010年、世界進出を目的としたスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。その後、BEENOSのインキュベーション本部長として、国内外のスタートアップ支援・投資事業を統括。2016年には『Forbes Asia』が選ぶ「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門に選出される。世界中で100社を超えるスタートアップに投資を実行。(写真:本人提供)

ジャフコ藤井氏は次のようにカラクリを評価している。

藤井 淳史氏2018年の投資時は、サービスリリースから間もなく、導入社数の伸びの初速を見ながらのファイナンスでした。

それ以降、導入社数の拡大は勿論のことながら、ユーザーのカスタマーサポート部門での自動化効果が進んでいる点が見えてきました。

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藤井 淳史(ふじい・あつし)経済学部卒、2003年ジャフコ入社。入社後、一貫してベンチャー投資業務に従事。IT領域を中心に製造・流通・サービス業まで幅広い分野で投資実行。(写真:カラクリ提供)

カスタマーサポート部門の人材難、接客品質の改善といった課題解決に寄与するソリューションであること、またその適用範囲が拡大する期待が高くなったことが、シリーズAでの投資の決め手になりました。

今後カラクリがサービスの幅を広げるには、二つの視点が重要だと考えています。

一つ目は、カスタマーサポートの現場オペレーションに関する知見です。初期の導入時もそうですが、自動化・品質改善を目指す以上、現場の業務や課題に精通していることが求められます。

単にシステムをお客様に提供するだけでは課題解決に繋がりません。いかに既存の現場オペレーションに組入れ、自動化の適用範囲を拡大していくかが重要です。

その点カラクリは、前職でコールセンターBPO(外部専門業者への業務プロセス委託)業務を立ち上げてきた小田社長を筆頭に、現場オペレーションに関する知見を有していることは強みになります。

二つ目は、適用範囲の拡大を図るために、より複雑な問合せに対応できるようソリューション開発を行うことです。

カラクリは、機械学習技術の応用研究に取り組む強力なエンジニア陣が、その開発を推進しています。

「自動化」もある意味システムによる「BPO」と捉えると、「BPOのサービス」(現場オペレーションの知見)と「ITによる自動化」(現場を改善するテクノロジー)が融合していることがカラクリの強みと捉えています。

目指すはカスタマーサポートの「デジタル革新」

最後に、資金調達を経て今後の展望をどう考えているか、小田氏に話を伺った。

今回の資金調達で、「AIチャットボットのKARAKURI」から「CS Automation & Optimization のKARAKURI」へ進化することを掲げています。

小田 「カスタマーサポートの課題を解決する」という方針は、設立時から変わっていません。

サブスクリプションモデルやシェアリングエコノミーが普及する中で、解約リスクを察知するなど既存顧客との関係性を深めることは重要な経営戦略となっています。しかし、まだ多くの企業でカスタマーサポート部門は軽視されがちです。

ここを、テクノロジーで解決していきたいと考えています。この1年、AIチャットボットを提供する中で、人手不足や顧客対応の複雑化といったカスタマーサポート分野が抱える課題を、カラクリでどう解決できるかが明確になってきました。

チャットボットを起点として、それ以外の自動化の選択も増やす必要がある。その考え方を表したのが「Automation & Optimization」というコンセプトです。

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具体的には、簡単なプログラムを作る感覚でCRMなど顧客の既存システムと連携ができるように開発を進めています。

たとえばECサイト上で「配送状況を確認したい」と問い合わせがあっても、これまでであればマイページへのリンクを提示するなど「配送状況の確認方法」を答えていました。

しかしデータベースシステムなどと連携をすることで、「あなたのアイテムは〇〇日に届きます」という回答ができるのはもちろん、配送日の変更までチャットボット上で対応できるようになります。

チャット上でリアルタイムに解決できる問合せが増えれば、エンドユーザーの満足度は向上するはずです。

その他にも機械学習で、問い合わせに対して人が対応すべきか、自動で対応すべきか、を適切に判断し、振り分ける機能も提供したいと考えています。

たとえば「ログインできない」という問い合わせをするユーザーの中には、年間500万円の商品を購入している人と、1円も使っていない人が混在します。前者のような利用頻度の高いロイヤルカスタマーに対しては、人が手厚くサポートすることでアップセルの機会を増やせるという仕組みです。

このように、カスタマーサポートが、ユーザーの課題を解決し、アップセル等まで担えるような自動化や、経営に貢献していることの見える化を実現していきます。

今回の資金調達を経て、今後はどのような展開を考えていますか。

小田 既存のサービスである「AIチャットボット」への引き合いも数多くいただいていますが、今後はカスタマーサポートの自動化機能を一気に広げていこうと考えています。そのプロダクトのコアとなる機能はこの1年でしっかり開発したいと思います。

カラクリが描く未来を共有できるユーザーと一緒に、成果を出していきたいですね。

KARAKUIさん集合写真

(写真:カラクリ提供)

(取材、編集、写真:三浦英之、デザイン:廣田奈緒美)

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